上野 「大統領の中生500円」

上野アメ横、50年も前から酒と串焼きを振舞っていた老舗の店…

その名も、上野「大統領」



何を隠そうここは昨日まで私のバイト先であった。

就職前に最後、アメ横でバイトがしたい…そんな私の夢を叶えてくれた大統領。
しかしアメ横の賑わいからも想像できるように、大統領の込み具合、そしてまたその忙しさも一介のバイトの範疇を超えていた。

その忙しさの中で、改めて私の無能ぶりを確認することが出来た。
会計ミス、お客様に酒をこぼしたり…時には客に食い逃げされるという大失態を犯す事も…

そのたびに叱られ、反省し、自分の木偶棒加減に嫌気がさす…

これから社会人として働く身として私は使い物にならないんじゃないか…そんな不安に苛まれる。




バイト最終日、私が最後のバイトだと知った、副店長が私に

「おい、これ飲めよ」
となみなみに注がれた中ジョッキビールを渡してくれた。


普段から厳しく私に接していただいた副店長、無能な私のことを恐らく疎ましく思っていかもしれない…しかしそんな副店長からの一杯に今にも涙が出そうになった。

「会社クビになんなよ。まあ、クビになったらここに帰って来いよ」

そんな何気ない一言が本当に胸に刺さり、心の全ての襞が震え上がるような感動を覚えた。




お言葉は大変うれしいが、大統領の社員…ではなく、立派な一サラリーマンとして成長した姿をお世話になった方々に見せれるようになったときに、しっかり挨拶できるようになったときにまた…ここ上野「大統領」に私は帰って来よう。



深夜、上野駅御徒町間のアメ横の上を鬱蒼と覆うガードに、私は誓った。