あゝ愛と青春のホンビノス
浦賀にペリー提督の来航
その衝撃に端を発し
地球にベジータとナッパが襲来
日本格闘技界にグレイシー柔術の到来
グラビア界にリアディゾンが進出
私はこれまでに
数多くの「クロフネ」襲来を
目の当たりにしました
平穏な松本での生活
長く続くと思われたその平穏に
眠気を覚ます
クロフネが襲来
松本駅前に
海鮮居酒屋
「磯丸水産」が開店
その情報を聴いた私は
震える手で店舗への連絡を
争点は
24時間営業の可否
文化都市松本において
24時間営業は某牛丼屋を除き
皆無
「はい!お客様!24時間営業です!お待ちしております」
何処の馬の骨かわからぬ私に
受話器から耳を
50mm離しても伝わる
その威勢
目が覚めた
早朝起き抜けに
最低限の服装に着替え
いざ本陣
すでに先客万来
海無し県松本の老若男女は
他のどの県の民より
魚介に飢えている事が
目の当たりにできる光景
1人席に通され
焼き物用ロースターを
舐めるように見まわし
手を添える
未使用状態のこの冷たさ
冷たい態度なのに
どこか暖かさを感じる子猫の様
目を瞑ると
脳裏に
思わず
「お嬢さん、あるだけのホンビノスを持ってきておくれ」
「お客様、注文はお手元のタッチパネルでお願いします」
私の傍若無人なオーダーにも
磯丸水産の若き浴衣店員は
物凄い冷静だ
はやる気持ちを抑え
とりあえずホンビノス貝を二つ
皆様はご賞味頂いていますか
カタカナ名からお察しの通り
外来種の貝にて
その昔
東京湾に外国の船舶が着港
その際に引っ付いていた大量の
ホンビノス達が置いてきぼりをくらい
東京湾沿岸部で生活を始め
現在に至る
房総半島の内房沿岸では
それはそれは
たくさんのホンビノスが獲れる為
千葉県沿岸在住の方々の食卓の顔
風味、歯応えが
本家蛤貝に引けを取らない為
昨今は
白ハマグリとも名を馳せております
「また食べごろになりましたら、ホンビノスを見に伺います」
他県同店舗では
ホンビノスの焼き方はフリー
全国に貝焼き奉行は一定数存在する為
問題はないが
この店は
「朝から浴衣の若い女性が、ホンビノスを食べごろで提供する為に専属で焼き台を見張ってくれるサービス」
まで
付いているのか、
クロフネか
もはや
バルチック艦隊の襲来
北アルプスの冠雪を彷彿とさせる
純白を身にまとう
ホンビノスを眺めていると
隣の若者達の声が耳に入ってくる
「このホンビノスって貝うめーな、、てかお前食い方汚いな、殻よこせよ」
殻を奪う若者
ふと目をやると
手で貝柱をちぎって食べている
「お前のホンビノス、貝柱2個もついてるじゃん、今日きっといい事あるな」
そんな茶柱みたいな発想もあるのか
それをちぎって食べる若者
こんなにも
松本の民は
ホンビノスを愛してくれている
よかったなあ、ホンビノス
遠い房総の沿岸
船橋で水揚げされ
豊洲に入り買い叩かれ
トラックの荷台に揺られて
中央道では富士山も拝めず
やっと日の光を、塩水を浴びれると思いきや
潮の香りが微塵もしない
松本が終焉の地
しかし松本には
ホンビノスをこんなに愛でてくれる
若人がいる
思わず涙腺が緩んでしまった矢先
先程の浴衣女性が向かって来た
汗をかいた
ビールジョッキを押しつけごまかす
ぜひ皆様
純白に輝くホンビノスに会いに
コロナが解禁された今夏
お近くの磯丸水産へ
足をお運びください
次週
「磯丸水産」の向かい側に
寿司居酒屋
「屋台ずし」が開店