珍しく南信地域が
豪雪に見舞われた夜
1人とぼとぼと
長野県は伊那北駅周辺を
少ない灯りを頼りに歩いていました。
私の独断で
長野県の三大盛場を挙げるとしたら
長野市権堂
松本市裏町
上田市袋町
南側の信州
いわゆる南信地域は手薄か
失礼ながらそう申していましたが
ここ伊那市入船付近
なかなかの強者
スナックと通行人の数が
全く噛み合っていない
コロナ禍を差っ引いても
スナックが過剰供給です
名前も高度経済成長期あたりから
恐らく戦い抜いてきたであろう
オールディな横文字が多い
そんな中で
あえてひらがな表記の
側方をながれる一級河川から
名前を拝借したお店に入店
すでに閉店しようとしていた女店主
「......」
伊那に突如現れた
未確認生命体に出会ったような視線で
ただただ私を見つめている
一見のスナックではよくあること
「あの、、まだやられていますか」
「え？あ！どうぞ！もう暖房切って帰ろうとしてましたが、、」
外から確認できる以上に中が広い
ボックス席四つにカウンター
カラオケのモニタが三機
30人程度の慰安旅行の３次会あたりで
広々と使えるキャパシティ
「すいませんねぇ、もう帰ろうとしたもんで
こんな変な格好で」
緑色した
コーデュロイのような生地の
ジャケット
マリモが人の姿に化けて
出てきたような上着
「変なズボンでしょう、変だわー」
上着でなく気にしていたのは
下着のようだ
ジャージなのか
いや
別に言うほど変ではない
「お通し食べてくださいねー」
キムチと何かが合わさった和物
見た目のインパクトこそすごいが
程よい味付けでお通しとしてはかなり
クオリティが高い
「いやだわー変な格好で、、お通しも変な味でしょう、、ありあわせで作ったのよ」
いや
味は変ではない
「美味しいですよ。おかわり下さい」
目をひん剥いて
仏壇の仏様がしゃべった時のような
隠しきれない驚きを
顔前面に押し出している
「私実は韓国から来まして、伊那に住んで35年なんです」
聞いてもいないカミングアウト
その辺りの伊那谷の住人より
日本語がうまいではないか
「何か一曲是非。チョーヨンピルか桂銀淑でもお願いします」
知ってる韓国人歌手の名前を適当に挙げて
「はい、わかりました」
二世代ほど前の
第一興商製のカラオケ機材に
入れたその歌
♪水戸を離れて東へ三里〜
橋幸夫 磯ぶし源太
何故だ
「お上手ですね！お見事」
「いやだわー変な声でしょう」
気を良くしたのか
私のウイスキーの水割りグラスを奪い
どこぞやの常連さんのキープボトルを
ヒーターに灯油を注ぐような勢いで
どぼどぼ入れる
一杯目からそうだったが
ウイスキーの割り方が
アバウトすぎる
二杯目は
もはや原酒
二、三口グラスに口をつける
つまみをいただく
またグラスを奪われる
♪持っていかないで〜私のグラス〜
ほら〜ルージュも付いてまだ飲みかけなの
そんな歌はない
自作のムード歌謡曲が脳裏に流れる
ママさん
気にするのは
マリモ色したジャケットでも
謎のキムチの和物でも
磯ぶし源太の歌唱力でも
ない
あなたのその割り方です
過去に
酒に酔わしてどうにかしたい
そんな殿方でもいたのだろうか
割り方に
背景を想像してしまう
アバウトさ
まずい、ノックアウトさせられる
数ラウンド終えた
ボクサーのような足取りで
店を後にしました。
明るい観光資源の多い長野県
赤線青線跡も実は多く
その名残だそうで
この情勢が収束したその日には
闇にひきづり込まれそうな
夜の伊那谷へ
ぜひお越しください
