美容部員

まだ私が少々若い頃




とある女性のオシリを



おっかけていた時期がありました









その人が


とある如何わしいビジネスの


手先だとも知らずに








「私化粧品がとても好きで…
ディオールのアイシャドウで539番の色がとても素敵で…」








なるほど





近々ホワイトデーも近いことだし





そのディオールのなんちゃらを

贈答したら喜ばれるだろう







ディオール

バッグが欲しい







とぬかしているわけではない







アイシャドウだ





たかが知れているはずだ








しかし



その539番ってのは




何なんだ?







538じゃだめなのか?





そもそも1番から




しっかり把握した上での



選択なのか?









なけなしの金と





どこか引っかかる



疑念を抱き








高島屋ステーションモールS館3階



コスメティックフロアに乗り込んだ私








私のような



コスメティックに縁の遠い人間でも






一瞬で店の位置がわかる位




出入り口早々に

その

今回の目当てである


クリスチャンディオール



待ち構えていました。








「いらっしゃいませ!こんにちはー」






世界のディオールで私は働いています


そのプライドから来るものなのか


かましい笑みを







前面に押し出してくる美容部員が







L寸100mm程度を誇る


ピンヒールを鳴らし






こちらに向かって来る





気配を消したはずなのに

さすが世界のディオール





一歩踏み入れただけなのに


数秒後に

私の利き手側に回るとは…







「お客様なにをお探しですか??」





この距離でようやく正体がわかる


相武紗季



もっともっと性悪にした感じの顔つき







目が笑っていない











しかしここは





千葉県柏市(私の出身地)







千葉の片田舎の高島屋



自惚れるな小娘







茨城の龍ヶ崎位から

バイトでたかだか柏に



来ているだけだろう








騙されんぞ










「あ…あの…ディオールの539番のアイシャドウでブラウン系のやつ…すすすいません初めてなもんで、頼み方がわからず…」







いかん

少々動揺が口先から



顔を覗いているではないか



「お客様その商品ならございますよ!どうぞお持ちしますのでかけてお待ちください!」








通じたか






思いの外まともにしゃべれていたのだな


しかし












座る場所が悪い






思い切り客が行き来する


通り沿い側の椅子ではないか?



美容部員よ

気を遣いなさい







近所のお友達の




お母様連中に見つかったら


どうするんだ?












「やだ化粧品なんか買いあさって…そっちの方に目覚めちゃったのかしら??」


狭い町内だ




悪い噂が立って






影口を叩かれ







私の両親が赤面し



あらぬ家族会議が開かれたらどうするんだ?




そして







これ見よがしに




鏡が目の前に









ああ






なんてでかくて冴えない顔



改めて見直す必要なんかないぞ




いや



まて










鏡のある席によこした




美容部員の意図…












しまった





とんでもない長い



長い













鼻毛が




こんにちはしているではないか。




今朝こいつの正体は確認できなかった







世界のディオールに向かう



ならば


正装と意気込みが必要だと信じ



新調したジャケットを装い






しっかりケープで仕上げた髪型




もっと









気を使うべき場所があった…




鼻毛よ









ここは君が来るところではない






直ちに立ち退きなさい





美容部員にばれぬよう



思い切り親指と人差し指の神経と

筋肉を集中させ



ターゲットとなるただ











その一本を狩るために






精神を研ぎ澄ましている私










その戦に何度試みても




抜けない






無情にもまだ未熟な



若鼻毛が無数に抜けていく




なのに




ヤツが


仕留められない





早くしろ


美容部員が戻ってくる





ふとこの焦燥感の中で思うこと




鼻毛抜きと恋愛は似ていないだろうか?


たくさんの女性(鼻毛)が存在するのに



本当に射止めたい女性(鼻毛)

には


中々振り向いてもらえない





「お客様お待たせしました!」


「いえ全然待っていません。むしろもっとよく探してください」


「はい?お客様…商品ございました。こちらになります。」



向いたら


鼻毛が挨拶をしてしまう



「はい!ありがとうございました」






素早く一瞥をよこすもその物が何色なのかは判断がつかなかった



「お客様プレゼントですか?お相手の方も喜ばれますね」







さっさと会計に移ってくれ






「いまキャンペーンをしていまして新商品のサンプルなんですがこの中からお選び下さい」








どれでもいい




むしろいらない





「じゃあその……小袋で」


「ありがとうございます。こちらなんですがこの冬から…」


「すいません、少々急いでいましてお会計を」


「失礼しました!8500円になります」






高い




たかだかアイシャドウだろ




これが



クリスチャンディオール





鼻毛のせいで
ケツを向けたままちょっと振り返る


わけのわからないグラビアのポーズのようになっている私







しかも




異様に法外なアイシャドウ









そうここは










クリスチャンディオール
















しかし







私は












ハナゲ・デ・オール