生還手記

これは
厚木のとある駐車場で
死闘の末


無事生還を果たした





一人の男の手記である

































見渡す世界は広く、
可能性に満ちている。

















颯爽と走る。逞しく走る。
ティグアンには、操る愉しさがある。
















誰もが運転しやすい、誰もが走りを楽しめる、誰もが心地よい、新たな時代のスタンダード、本格コンパクト











フォルックスワーゲン社が誇る新時代のSUV







それが

Tiguan(ティグアン 写真参照)






























心地よい朝の日差しとともに












私はティグアンの中で目を覚ましました。













「見渡す世界は広く、
可能性に満ちている。」





















なるほど
















自身の目を
何度こすっても
























見渡す限りに広がるは



















私の自宅下の駐車場









そして隣に見えるは
本来私が就寝をするべき自宅マンション













「颯爽と走る。逞しく走る。
ティグアンには、操る愉しさがある。」












朝の心地よい日差し




























5月だというのに


灼熱の太陽がぎらぎら照りつける午前7時















想定される車内の温度は40度を
上回っているのではないか
















フォルックスワーゲン社が語る

爽快という言葉が





一体











この車のどこに落ちているのだろうか




そしてなぜ私は







午前7時に






この車の中で幽閉されているのだろうか














このティグアンという車はおそらく
同じマンションに住む

厚木営業所のナイスガイ同期の所有物のはず






確か昨日夜町田に営業所の要人を



クソガイ同期が送迎をし

助手席になぜか私が同乗








ともに町田から帰還





中継地点の

座間あたりまでの記憶はあるが
そこから先の記憶が…









なぜ私だけ
ここに取り残されているのだろうか








とりあえずこの
灼熱地獄からの脱出を試みなければ






助手席の扉を開けようとするが






びくともしない






ああ


鍵が閉まっているのか




鍵のあいたマークが記載された
ボタンを発見し押してみるが





特に解除された音もなく



扉が開く気配はなし











おいおい











冗談だろと笑いながら





もう一度ボタンを連打するも








無情にもただ悠久の時が流れるだけで



ここ
厚木の
しがないマンションの駐車場に止められた





ティグアンの中に





変化が起きる気配が全くない…





















「ティグアーン!!!」









気が狂ったように
その車の名前を呼び続けるも






車内はおろか










朝七時に周囲に人の気配もなく










いよいよ額から汗が噴き出し始める











厚木営業所のクソガイ同期に




電話するも目覚める気配もなく





「ティグアンの中に閉じ込められた。助けてくれ」












救急要請メールを送るも
返信がある気配もない










窓に口紅で





「I LOVE YOU」


ではなく







窓にリップで



「HELP ME」



と書くも



それに気づくものもおらず









上着を脱ぎシャツも脱ぎ


ランニング姿一枚の謎の成人男性が





車に閉じ込められている













なんて滑稽なんだ





この光景を




外から見たかった






上がり続ける気温


いよいよ生命の危機を感じ


一人幽閉された孤独からの恐怖のあまり
























DEEN
「ひとりじゃない」





を車内で熱唱















♪ひとりじゃない
もっと自由になれるはずさ
プライドや猜疑心とかもう捨ててしまおう














すでにプライドは捨ててしまったが









クソガイ同期への
猜疑心がどうしても捨てられない










全ての手段を打ち

絶望の淵から不貞寝しようとしたその時





映画チャイルドプレイのチャッキー人形のような
笑みを浮かべながら







のこのこ








クソガイ同期が
ティグアンにようやく戻ってくる
















「ここが8月の岐阜の多治見だったら死んでたわ」
















「はははは」













爆笑をやめないクソガイ同期









こいつは



もはや正気じゃないと判断し



ごく普通のコミュニケーションを断念する












無事に自宅に戻り

べちょべちょになったパンツを脱ぎながら


遠くに見える富士に


生きとし生ける今日の日に感謝












これから夏に向け暑い日が続きます


どんな場合でも、車を離れる際には決して子供を置き去りにしないように、
また、そういうお子さんを駐車場などで見かけた場合には、
ぜひ駐車場の管理者に通報して下さいますように、
すべての方にお願いしたいと思います。







以上

神奈川県警から








いや








私からの切実なお願いです。