不泳鯛焼

神奈川県の小市民が集まる本厚木の
これまた小さな小さな集落に




白い飯より黒い餡

休日には沢口靖子を呼んで

キルフェボンばりの色鮮やかなフルーツをこしらえた
リッツパーティを開いてしまう
「甘味王子」がおりました。





しかし王子





最近のハードワークがたたり
肌が荒れ
睡眠もままならないご様子




限られた時間で栄養を補給しなければならず
かつ質の高い仕事を行うには
頭を活性化させ
上質な糖分摂取が急務と考えた王子は





集落の一兵卒である私に
とあるミッションを課しました





「日本全国津々浦々、美味しい鯛焼きを探し出し、もしそれが究極の美食に値するのであれば、厚木1万石の富を与える」





「王子!お言葉ですがなぜに鯛焼きを好まれるのですか?今川焼やどら焼きでは…」





と言葉を発した瞬間
隣にいた参謀にバターナイフで脇腹をさされ





「黙れ小僧!鯛焼きのあの餡のムラを思い出せ。店舗によって尻尾の餡の量が異なり、皮の厚さが違う。ましてや同じ店舗でも我々はアタリ鯛焼きをを雌とよび、雌のほうが腹に詰まる餡の量ががぜん多いんだ。食べるたびにドキドキとの出会いがある、こんなギャンブル性の高い甘味が他にあるだろうか。いや、ないだろう」





なぜ甘味にギャンブル性を求めるのか
疑問が解消されぬまま



そのミッションを遂行すべく、
先々週は吹雪で荒れる新潟県長岡市に上陸




新潟県下にて味に抜かりない鯛焼きを探すべく
ようやく見つけ出したその店舗






「しろう庵」




長岡駅東口徒歩1分圏内で手に入る手軽さながら
いちごクリーム、黒豆あんなどバリエーション豊富な鯛焼きメニュー



まさに灯台もと暗し



あんこ味とチョコレート味を購入し
上越新幹線に飛び乗りいざ厚木へ帰還












王子がくだした評価




鯛焼きにチョコレートを入れてお子様の気を引きつけ、しいてはお連れのお母様までに媚を売る所業、まさに下衆の極み」





全く鯛焼きの味とは関係無き酷評を頂き、
はたまた参謀からバターナイフを
鼻の穴に突っ込まれる私刑をくらう





ザリガニ飼育、金魚百匹踊り食い、6時間耐久三輪車…etc


数々の壮大なミッションを
紙一重でクリアしてきた
私としても




たかが鯛焼き一匹
ここでめげてはプライドが許さず





うまい鯛焼き屋はいずこにあるのか


王子の頬っぺたを削ぎ落とす美味はいずこにあるのか


甘味に詳しい知識人や情報誌に意見を求めた結果



操作線上にあがった3つの店舗










1、東京都千代田区四谷
高層ビル街の中に申し訳ない程度に影をひそめる姿とは
裏腹にその味の自己主張が強すぎる老舗






わかば









2、東京都文京区根津
東大のキャンパスに程近く古くから文人がその味を愛してやまなかった…
というフレーズがさも似合いそうな立地と佇まい




「根津のたい焼き」







3、東京都港区麻布十番

麻布に鯛焼きがあるのか?しかしそこは立派な鯛焼き
かつての主人は「泳げたい焼きくん」のモチーフとなり
その味の歴史が店の外観からも伝わる



「浪花屋総本店」





私と甘味捜査員二名で一件目からローラー式の
ガサ入れ捜査が断行されました






Mission1 「高層ビル街に泳ぐ鯛焼きを捕まえろ」







こんな高層ビル街のどこに鯛焼きが泳いでいるのか
疑問冷めやらぬまま




グーグルマップを頼りに
店舗の場所を探り出し思しき場所に到着







捜査員「デカ長、この人気の無さ…四谷とは思えませんね」




私「たしかにな…しかしグーグル様はここにホシが潜んでいるとおっしゃっているのだが」




捜査員「私のジミーノーズ(ジミー大西並みの研ぎ澄まされた嗅覚)も全く反応が…」






思しき場所は四谷の国道20号線から外れ
人通りもめっきり少ない裏路地

あてなく彷徨うこと10分





結果私達の目に飛び込んできたのは
その目を思わず覆いたくなるような現実







「本日休業」







ベタすぎる展開
そんなの事前にグーグル先生に聞いておけよ…




バターナイフで刺された脇腹の古傷が痛む。







捜査員「デカ長…扉を叩いて…鯛…焼かせましょうか」



私「やめろ。そんなモラルに反して食べる鯛焼きのどこがうまいんだ」




捜査員「しかしこのままでは…王子の肌荒れが…」




私「ここは…いっそのこと尻尾を巻いて逃げるか…鯛焼きだけに」




捜査員「次の根津まで東京メトロにまたがり約20分の行程です」




私「君、無視だけはやめてくれ」








次回
Mission2 「売り切れ御免。赤門前鯛焼き争奪戦」



更新途絶え申し訳ありません。
長い目でご覧になっていただければ大変幸いです。