三浦激戦 第2章


前回の



私と鯖の年の瀬の攻防





後半です。















三浦市に入り






どんどん牧歌的な風景が




色濃くなり






無人の三浦大根売り場もちらほら













ようやく

今回の伝説の鯖を食せるであろう








江奈湾に到着












江奈湾を一望できるテラス席







鯖よりもまずそのロケーションに



唖然となりました。








無意識に



私はテラス席へと足が動いていました…













「お客様!お外は寒うございます!!どうぞ中へ!」








必死で私を止めに来る女中










「構わん。通せ」






「よろしいのですか!?」





私は女中に振り向きもせず背中から






「松葉サバ。大量の松葉サバを持ってきてくれ」








「メニューボードをぜひご覧ください」








「いや、結構。鯖を持って来てくれ」










江奈湾を臨みながら









吐いたこのセリフ











ヤバイ客が来た










さぞかし女中は怯えているだろう。












「鯖もいろいろございまして

しめ鯖か、炙りか、その二種類が食べれるお得セットか…」












「お得セットと単品では炙り方に違いは?」








「…あります…違いが…」





なんでしってんだこいつ




という顔の女中










「じゃあ炙りしめ鯖を定食にして、しめ鯖単品で」









「2種類も??食べきれますか?かなりの量ですよ」









「ご心配をありがとう。君が思う以上に私は鯖が好きなんだ。オーダー通り持って来てくれ」






「かか…かしこまりました!」









きっと女中は





私の胃袋の心配でなく










お金を心配したのだろう。









定食が2600円に対し単品が2300円。









鯖のウエイトが高すぎる。









それを2セットだなんて…








偉そうな口の聞き方するわ








寒いのにテラス席に給仕しなきゃいけないわ






こんな不逞浪士みたいな客







金があるはずがない。








そう思ったのだろう














私の座るテラス席を見る



女中の目が増えたような気がする。










私が厠へ行こうと




中に入ろうものなら





「お客様!やはり中の席がよろしいですか!?」







「おい、名もなき女中。よく聞け。寒さに負けたわけではない。大便だ。用を足したい。厠の場所を教えろ」







「ト…トイレでよろしい…ですか?一階にあります」








まだ私を不逞浪士と勘違いしているようだ。




食い逃げなど



そんな所業は




鯖の前ではせぬ










厠から戻るや否や



「お待たせしました。しめ鯖単品です


周りを囲むお魚のご説明ですが、横の白い魚がメヌケで…








「おい、名もなき女中。雑魚の説明は省け。早く食わせろ」










注釈ですが


メヌケは




雑魚ではありません。



決して序列があるわけではありませんが



鯖よりはるか天上に位置する高級魚



それを松葉サバの付き添いに使うだなんて







松葉という冠は


そこまで高貴なものなのか…











早速一口





















お…









ん…










あれ?






一切れ20回咀嚼










もし私が






海原雄山だったら





テーブルをひっくり返したかもしれない











先日食べた




ふるさと納税


長崎から



大量に仕入れた鯖と変わらない










むしろ



先日


岐阜県



大垣の寿司屋で食べた



しめ鯖の方がうまい








岐阜は内陸だぞ










私は持っていた割り箸をへし折り









「おい女中。これは松葉サバか?」








「はい…松葉サバです。」




「今は旬ではないのか?」










「はい…だいたい11月までです。ただお客様は幸運です。もうこの時期ではあまり獲れませんが、今日は数匹湾に上がりました。漁師が一本釣りで釣りました。確かにしめ鯖だと本来の脂身が多少ぬけるかもしれません。鯖の個体差もあるでしょう。つぎお持ちする炙りしめ鯖が生で食べる感じとほぼ一緒です。炙りしめ鯖をご賞味ください。すぐお持ちしますから」














私は一体





この女中の





なんのスイッチを押して…





しまったのか






淀みなく応酬してくるではないか





先程までの




私の傍若無人な態度に




ずっと業を煮やしていたのだろう










「炙りしめ鯖です」







心なしか


女中の語気が荒い











早速一口


















こ…









これは…!!















今振り返ると








その時の私の顔







まるでメヌケのように




飛び出さんばかりの目の玉





だったのだろうか















衝撃だった








これが鯖?








さっきのしめ鯖と









雲泥の差





月とスッポン





鯨と鰯







花とゆめ







甘食とアマタツ










ヒロミゴーとポケモンゴー









最悪


歯がなくても








食べられる柔らかさ








喉を通るのが惜しいくらい







一瞬で姿を消し








くどくない



ほのかな





脂感が口の中に残る










私は




その余韻で










人知れず泣いていました。










三浦まで来た道のりは







やはり無駄ではなかった












私がもし海原雄山だったら








鯖は褒めず








わけもわからず食器に難癖をつけて








立ち去っただろう













江奈湾に敬礼








海の幸万歳








女中と握手を交わし







店を後にしました








しかし





雑魚呼ばわりしてしまった





メヌケ…







あれが



一切れだったのが






惜しい…




どこか






メヌケの刺身が食べれる店









愛知県にありますでしょうか…








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