湘南之花

江ノ島電鉄







通称

江ノ電 







七里ヶ浜駅から鎌倉高校前駅まで向かう線路沿い












その緑の電車は







民家と民家の間を







するりするりと抜けていく













線路のすぐ目の前に





表札がかかった玄関









なかなかお目にかかれない珍しい光景に










カメラ小僧がいたるところに待ち構える










そんな風情溢れるスポット














長い旅路の果てに








何の因果か



この七里ガ浜でさまよい





わけのわからぬ裏道にもぐってしまった





一人の小市民















それにしても狭い











民家



すぐ目の前が線路




そしてすぐまた民家










車一台通るのがやっとのこの狭い路地を










なぜ鎌倉市は一方通行にしない













どうか












どうか前から車が来ませんように…








小市民の







鮟鱇の肝より






小さな小さな









その肝は










バースト寸前であった。

















ようやく海岸線が見え





ゴール間際かと思ったその瞬間


















前から












必要以上に車幅を広げ












この炎天下で










黒光りがさらにまぶしいそのボディ































ハマー H2


(写真参照)

































参上





















いったい







何者が









何の意図で










こんな小道に









ハマーで乗り入れてくるのだろうか
















微動だしないハマー
















なるほど





そうゆう魂胆か









私に道を譲れと















かつて








偶然










表参道の狭い裏道を









減速せず










我が物顔で




すいすいと走る




ハマーに出会ったことがある。










いったいどんな了見なのだと思い














薄いスモークのかかった



パワーウインドを覗き込んだら














中に鎮座していたのは





























神の子








山本キッド徳郁









であった。















ハマー=山本キッドの愛車=神の車











この場に及んで






キッドが






私の行く手を阻むというのか






しかし






神の子の逆鱗に








触れてしまったその時は








私の顔が






まるでハマーのボディのような










いかつい凹凸…











即座に







その方程式から導き出した答えは








「道を譲る」











という判断であった






しかし





本当に



車一台しか通れないこの道を







どう譲れというのか











少しバックをし





車を民家側に寄せてみるが






まったく効果をなさない














モラル的に




ルール違反だが












止むを得ない







民家の狭い駐車場に



バックで駐車し













ハマーに道を譲るとしよう















バックでの入庫中










前からさらに迫り来る刺客

















江ノ電

(写真参照)

























参上







「ファーン!」





という必要以上にでかい汽笛







あわてて



若干線路に乗り上げた







車輪を元に戻す








気を取り直し







もう一度バックにて進入









「バキッツ…」








入庫が完了したと同時に








聞こえてきた








鈍い破裂音








目の前を通り過ぎるハマー









乗車していたのは








神の子








キッドではなく






もはや






仏のような




顔をした







気のよさそうなオッサン












申し訳なさそうに


こちらに会釈をしている











ハマーを見送り









すぐさま車体後方へ
















あわわわわわ







ポンキッキーズのムックのように




開いた口が





塞がらない






どころか







わなわなと震え続けている












なんと



軒先のプランター








何者かによって




破壊されている





















いや


















200%








私のせいだ


















そして






本来曲がってしまっては











いけない方向に














植えられていた




鮮やかな黄色が



この状況において



憎らしいほど



美しい



小ぶりな









ひまわりが



















まがってしまっている

















「もしもし!もしもし!」













ひまわりを起こそうとするが

まったく返事をしない











落ち着け














まずは民家の方に報告をしよう



















待て













今度こそ

















中から
















神の子












山本キッド徳郁









出てくるのではないか
















「おいてめえ!ふざけんじゃねえ!!
フェザー級のタイトルよりも大切な俺のひまわりを!」










あのHEROSにて








宮田和幸




わずか4秒でKOにした膝蹴りが









玄関を開けたら






私の顎下に飛んでくるのではないか










膝の震えがピークに達し








どこぞやの民族の踊りと化している












いったん冷静になろう






ここは



得意の謎の呪文を使って




ひまわりを回復させるか






いや











いったん








気分を変えるべく

















歌でも歌うか


























「♪あの太陽に〜もう一度咲かせたいよ〜強い風にも負けないひまわり〜」
TUBE 「ひまわり」より)















前田さんが言うほど












ひまわりは






強い花ではないようです




















覚悟を決め










民家のインターホンを押し





家主が出てくるのを待つ













沈黙のインターホン








こだまする蝉の声











「いらっしゃらないのかな…」



もう一度インターホンに手をかけたその瞬間









中から出てきたのは



膝蹴りではなく







なんとも心優しそうな






好々爺







「どうされましたか?」
 









「すいません…軒先のひまわりが…」













「あら…」












「すいません。弁償を…」









「いいですよ。よくあることですし」











「え?」













「ほら」












好々爺が指を刺す方を見ると










確かに








私のようなバカタレが







引きずったと思われる







へこんだプランターがもう一つ












「あなたこの辺の人じゃないでしょう」















「はい…生まれは千葉の片田舎です」











「すれ違うときは江ノ電の線路に車乗り上げていいんですよ。そのためにあえて柵を設けてないんですから」












「すいません…ひまわりが…」












「いいですよ。お気になさらず。お気をつけて帰ってください」















ひまわりの









その曲がってはいけない方向は







物を言いたげそうに







私のほうを向いている
















「本当にすいませんでした。」








玄関に消えていく好々爺













ひまわりの花言葉の一つである









「敬慕」















敬慕すべき






好々爺とひまわりとのひと夏の出会い












「本当にすまない」










ひまわりを







もとあった場所へそっと戻し



合掌





1時間程度要し







ようやく裏道を抜ける