半地下の誘い

長野県は松本の住処の前に


ドラマ「白線流し」の


まさに白線を流した



薄川という小川が流れ







その川を渡る橋を越えると






ある一軒の





半地下の居酒屋があります



 



私の住処から近いので



たまに伺いますが





韓国映画


半地下の家族さながら



海抜のマイナス地点に


立地していそうな佇まいの為




近くの薄川が氾濫したその日には



脱出は困難を極める恐れがあり





雨足の強い日は




入店の誘いを必ず拒否します







黒板に数品書かれているメニュー






しかし


そのどれもが




まともには出てこない








「すいません、黒板のニラ玉を下さい」





「あ、ごめん、卵ないんだ。でも今日はニシンの刺身がうまいんだ。どう?」




「では、鰊を下さい」







飲食店が


まず卵を揃えず




どうメニューを


切り盛りするつもりなのか





そして案が代替えになっていない












雨足が強い日に限って




メールのお誘いがある





一人暮らしの私には


大変ありがたい事だ





でも今日も雨足が強い







最初は





「いい刺身が入りました。ぜひお出かけください」




私が


日本魚検定2級保持者だと


知ってのことか




当初は刺身という表現で


釣るお誘いが多かったのが





こいつ、なびかないなと


判断されたのか







「いいボラが入りました。ぜひお出かけください」



「いい若いボラが入りました。ぜひお出かけください」



「いい若いボラの卵が入りました。ぜひお出かけください」







鶏の卵はないがボラの卵は用意するのか





若いボラの卵は獲ってよいものなのか




そしてそれを世間はカラスミと呼ばないのか








負けました



雨足が弱くなって来たので



その日は入店を試みました












またある日



魚では釣れないと判断されたのか





「今日まさし君来ます。ぜひお出かけください」




私と同年代の常連


一見イケメン風味なナイスガイ


まさし君






確かに魅力的だ



ついに人で攻めて来たか




しかし




今日は雨足が強くなりそうだ







「今日〇〇病院の脳外科のトップの方が来ます。ぜひお出かけ下さい」



確かに最近




若いアイドルの名前が


めっきり覚えられなくなった





相談したい





しかし近所の野良が


ラルクのボーカルみたいな声で



鳴いている



これは



雨足が強くなりそうな予感がする







「今日はダムダムのママが来ます。ぜひお出かけください」





ダムダムとは近所のスナック


そこのママさんが来る



そこのスナックの看板は知っている




ただ入店したことはない




そして半地下で居合わせたこともない




よって


そのママが何者か



私は知らない




もはや雨足も関係なく





普通に行きたくない











皆さんのご自宅の近く




気になるお店の一軒、二軒




ありませんでしょうか







このご時世



お店の評価を調べるのは造作もない事






いったん携帯を置き





何も調べず




まずは意を決して入店を







ご近所なのに



とんでもない異世界



皆さんを待ち受けているかもしれません



1人が嫌だと仰るなら



私が同行させていだだきます




その日雨足が強くなくとも