時空少女

道端で
偶然肩と肩がぶつかり



そこから恋が始まるラブストーリー




こんなベタな設定は
未だにテレビドラマで採用されていたりします。





少し前の作品ですが





日韓合作ドラマ
『Stars Echo〜あなたに逢いたくて〜』は
そんなベタな設定から恋が始まります。




韓国のドラマは
日本でベタとされる手法が
ふんだんに採用され



しかもそのほとんどが日本でヒット







韓国ドラマだから許容されますが




私達がすんでいる


この現実世界では





肩がぶつかって恋も始まらなければ









バナナで脚を滑らせる人もおらず










食パンを加えながら
「遅刻する!」と叫んでいる
女子中学生も走っていません。








ドラマやアニメ世界と




現実世界は
起こりうる事象に






ある一線が引かれているはずなのです。



















はずなのですが











私が住む







ここ





神奈川県



厚木市






私が今まで常識と考えた
概念を覆されるような






出来事が次から次へと

私の身に降りかかってきます。










まさにボーダレス













それが














厚木アナザーワールド










仕事帰りの午後10時過ぎ
家路を急ぐ私に







何か得体のしれないものを
乗せたカートを引きづりながら



ブランド不明のTシャツ一枚
よれよれジーパン




まさに時を駆け抜けてきたような少女が




こちらに全速力で向ってきました。









そして
私の顔を見るなり




























「野菜買ってくれませんか」






と一言





私もなかなかの狂人ですが


一瞬にして敗北感を感じるような

強敵と対峙をした瞬間でした。








私のリアクションを待たずに



謎のカートからおもむろに





「このポンカン大きいでしょ。栄養が詰まっている証拠です。買ってください。」











私も曲りなりに営業の仕事に従事していますが



こんな文脈ぐちゃぐちゃで強引な手法は
ある意味見習わなくては
いけないのかもしれません。









そして
その大きなポンカン以上に




その



時を駆ける少女の顔の方が
大きく立派だったので





「ポンカンはあまり好きではないので結構です」





私はポンカンに話を思わずかけてしまいました











ひるまず少女は



「ポンカンだけではありません。このトマト。立派でしょ。この赤色はリチウムがたくさん入った証拠なんです。栄養満点ですよ」








リチウムが入った
トマトなんて恐ろしくて食べれません。


リコピンと間違えているのだろうと
特に突っ込みも入れず
しばらく泳がせてみようと思いました。






「ちなみにお値段いくらですか」







「一パック500円です」











高すぎる




ほぼミニトマトと呼んで差し支えない
ミディアムトマトがたった6つ




「高すぎやしませんか」




「私が丹精込めて作ったんです。この値段で安いくらいです」









その女が営む
農業の価値は一切わかりませんが



箱には「宮崎産」と書かれたシールが一枚







「宮崎からわざわざ来られたんですか」









「いえ、町田です。生まれも育ちも」
















私は拳をぐっと握り締め怒りを我慢しました。













「これ全て売りきらないとお家帰れないんです」







ついに泣きおとしか











いや…







これは新手のナンパなのか












私は発想を転換させて





「私の家に泊まればいいですよ。おいしいお味噌汁でも作ってあげます」








「大丈夫です。町田の終電が12時くらいまでありますから」














強く握りしめた拳で
外腿を殴りながら
再び怒りを我慢しました。






「すいません人を待たせているので、これで」





「待ってください!お値引きします。2箱で800円。いかがですか」





「勘弁してください」





「じゃあ6パック、1段ボールで2500円。もう断腸の思いです」





なぜ徐々に売りつける数が多くなっているのか


斬新な営業スタイルを確立している少女








根負けした私は






「わかりました。では一パック」







「ポンカンですか」






「いまトマトの話していたでしょう。トマトの方です。」






「毎度どうも。500円です」





「そこは安くは…」




「なりません。」





「わかりました。では…」






「ちなみに1段ボールでは2500…」






「結構です。いりません。では」






「ありがとうございました。またどこかで」






別れ際から
家路を急ごうと早足になったところ
















「お兄さんすいません!!ブロッコリーも実は」





「うるせー!!」















渋谷から42km






ルート246を
ひたすら南下するとたどり着く




ここ
神奈川県厚木市









色眼鏡が外れ



小田急ロマンスカーが無料化し





皆様の心がボーダレスになったその時は









ぜひ一度

お越しください。



厚木アナザーワールドのいち住民として
皆様をご案内させていただきます。