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新宿 
歌舞伎町某所にある
とあるコンビニエンスストア





都内でも比較的夜勤の時給が高く




その高時給に裏打ちされたように




客層もまた店員泣かせであり




おにぎり一個では購買欲が満たされない
猛者達ばかりがこぞって終結してしまうのが



この街に店舗を構えるコンビニの宿命












そしてそこに配属された店員は


彼らの襲来を



丁重に出迎えなければならない














今宵もまた

この夜の街で戦を終えた猛者が一人

迷い込んでくる











夜も更け
丑三つ時を回ろうとしたその時






さりげない光沢がそこまで厭らしくない
グレーのスーツを身にまとい





胸にはダイヤをちりばめた
薔薇の形のブローチを付け







長身金髪 
日本人離れした
目鼻立ち


昼間に



この街を歩いていたとしても


間違いなく




夜のご職業であろうとわかるそのプロポーション









そんな男が
血相を変えてコンビニに足を踏み入れる










「いらっしゃいませ!」










「いらっしゃいませ!じゃねえよクソ野郎」










開口一番ずいぶんとご立腹の様子
その言葉の汚さもさることながら






仕事上仕方がないのであろう






彼が放つ吐息が











物凄く酒臭い







まるで奈良漬と話しているようである








「どうされましたか」






「どうされたもくそもねえよ。入ってねえんだよ爪楊枝が」










その男の右手に注目をすると


から揚げがこんもり盛ってある


容器を手にしている。








どうやら男は

購入したから揚げに
爪楊枝がついていなかったことに
物凄い怒りを感じているようだ。










「おまえ!から揚げ手で食えって言うのかよ!俺はインド人か?」





貴方様はインド人ではありませんよ



という答えが

不適切だということは想像に難くない















それよりもまず気になるのが

そのから揚げの正体である。











そのから揚げは我がチェーン店で


購入できるから揚げではないことだ














我がチェーン店は一本の串に


三つのから揚げを


一突きした











から揚げ串たるものは扱っているが







容器にてんこ盛りにぶち込んだ様をした





まさのその男が持っている




から揚げを取り扱っていない。











「お客様、それは当店のから揚げではございません」





「は?から揚げなんてどこでも扱ってんだろ!屁理屈こいてるんじゃねえ!」









連日連夜の仕事が


五臓六腑






そして脳細胞をも浸食しているのだろう



きっとこの男は



お隣の新大久保のコンビニ





いやまたさらに





お隣の東中野のコンビニ






ちょっと寝過して










終点高尾のコンビニで


購入したから揚げであったとしても










もはやそれがから揚げでなく





フライドチキンであったとしても




私に



難癖をつけてくるに違いない















ここはコンビニ店員の器量が試される







我々は都内一般のコンビニ店員よりも
割高な時給をいただいている








いわばコンビニ界でも
選ばれたコンシェルジュである



その誇りを胸に



相手がどんな理不尽な山族であったとしても


丁重に対応しなければならない











それが











プロフェッショナルである証













私はもはや自己陶酔していた


そして
おもむろに引き出しから爪楊枝を出し









「さあこれをお使いくださいお客様。お持ちのから揚げが御手を汚さず召し上がれます」




「あ、悪い、耳のとこに引っ掛かってたわ」











麻雀の点棒を耳にはさむがごとく




男の長い髪に隠れた耳から



見事に爪楊枝が登場













私の右手に持った
爪楊枝が真っ二つになる






そのかすかな破壊音とともに







私の中の

琴線が見事に切断される











連日連夜
猛者が襲来するこの立地において







こんな客は




氷山の一角にすぎない






しかし





どんな猛者が来ようとも










自分を信じること












揺るがないこと













私は












プロフェッショナルでありたい。














缶コーヒーのプロフェッショナル


ダイドーブレンド&デミタス






















マンションの下の自販機で購入した
ダイドーブレンドコーヒー







生まれて初めて経験した






「当たりが出でたらもう一本」





の記念に一筆