真鶴哀歌

神奈川県は藤沢駅周辺で




しこたま夜通し酒をあおり








朝方眠気眼のまま





東海道線に乗り







厚木まで帰る





相模線と乗り継ぎができる





茅ヶ崎駅にて降車


















できるはずがありませんでした。


















目が覚めると



進行方向左側には








壮観なマリンブルーが車窓に広がり









どこか






遠くの田舎へ戻った時の



あの懐かしい造りの民家がちらほら








私はいったいどこを目指しているのだろうか








車内の電光掲示板には






「次は 真鶴」





という文字








今回の乗り過ごしは



思いのほか致命傷ではありませんでした。






藤沢から出る東海道線が行ける範囲はたかだか熱海が限界








小田急線に乗り換えができる





小田原駅から





そう離れていない







真鶴で降りて引き返そう




そんな算段でした

















駅に降りたその瞬間









私はなぜか





どこかそのノスタルジックな駅舎から発せられる







謎の引力によって




改札をくぐっていました。
















釣人客がちらほら





真鶴観光案内と


駅改札付近におかれた



パンフレットの表紙は風化し




色のあせ方から





そのガイドをとろうと



試みた旅人が


久しく表れなかったことを


語っています。













昨日の酒が残っている







頭がどこか重い…


少し休めるところはないだろうか



しかし





ガストもデニーズも





松屋吉野家






王将も日高屋






この真鶴駅前には存在しません。









やはり



改札をくぐらず


早急に小田原に引き返すべきだった






と悔やみながら駅周辺を見渡すと…










どこか怪しげで







入ったら最後





どこか異次元へ





いざなわれてしまうのではないか





そんな店構えの



カラオケ屋を発見






















小田原へ帰ろう






そうよぎった考えをいったん反故にし








私のエセジャーナリスト精神は









この店構えを無視せずには居られませんでした。









およそ裏路地へ入るような入口








いきなり左側に




受付が出現



カウンター越しに座る



身なりを小奇麗にした熟女店員が一人






風吹ジュンに場末のスナックのママ役をやらせたようなルックス





きっと若いころは綺麗だったんだろうな…






と見とれていると






淡々と料金システムを説明され





部屋へと案内される








痔に優しくない固めのソファー




カラオケの機械(第一興商製)





傷だらけの机



カラオケを行うに最低限必要なアイテムが3点







でもちゃんとデンモク






さすがになめ過ぎか…






しかしただただ壁が薄い






隣の高校生無勢の






お世辞でもうまいと言えない





汚い歌声がまる聞こえ






立て続けに流れるGReeeeN






曲名は変われど曲調が同じなので






全部同じ曲に聞こえ





それでいてやはり声は汚い





ただどんなシチュエーションでも





仲間同士はそつなくそこそこ盛り上がるGReeeeN







とても利便性の高い曲を排出し続けるバンド集団







でもやっぱりこの真鶴の高校生の歌声はひどい





私も仕返しとばかりに





壁に向かって







ドラゴンアッシュ


「Fantasista」を全力でシャウト








それでも止まない奴らのGReeeeN







私も負けじと続いて








ユニコーン

「大迷惑」を酒枯れした喉にとどめをさすべくシャウト







それでも止まない彼らのGReeeeN

















無意味な戦いでした。



私は私の歌を歌おう…












デンモクの履歴検索を見ると







過去この部屋で





どんな客層が訪れ





どんな思いでそのカラオケの時間を共有したか









手に取るように分かります。











履歴をめくるめくる見ていると







男性アーティストと女性アーティストの曲が交互になっている履歴






きっとこの部屋にカップルが訪れたのでしょう








EXILE 「Lovers Again」


とっても甘い歌。早速落としにかかりましたね彼氏
さぞかし歌声に自信がおありなんでしょう




西野カナ 「君って」

これもまた歌唱力が伴えば彼氏のハートを鷲掴みにしてしまう名曲
彼氏、まだその手はおひざ…ですよ






福山雅治「Squall」

ピアノの音色がこれでもかと美しいこれまた王道ラブソング
甘い歌ばかりですね。緩急も重要ですよ








Every Little Thing 「恋文」

彼女も応酬しますね。もはや結婚式で使われるこの曲。
やたら「二人でいたい」とか「ずっと一緒に」的な単語をふんだんに混ぜてくる
持田香織氏の詩にいよいよ…彼氏の手が……歌っている彼女の肩に!!






嵐 「君のために僕がいる」



やっとバラードから脱出。彼氏は一仕事終えたんでしょうか?
「君」の部分を彼女の名前に変えて歌ってみたり

♪沙耶のため〜にぼくが〜いる…楽しそうですね




BBクイーンズ 「おどるポンポコリン」


彼女はっちゃけ過ぎでしょ。何かが憑依したのでしょうか?
もしくは彼氏?…これは事件性が高いですね




八代亜紀 「愛の終着駅」


あ、別の団体のお客様の入店ですね。ここから5曲ほど八代亜紀が続きました。















履歴ばかりおいかけ一瞬で1時間終了






490円という意外と高めな料金設定















GReeeeNを鼻歌に






真鶴を後にしました